hmdの鐵たびブログ ローカル線の旅

のんびりローカル線の鉄道旅を、写真を中心に「見る紀行文」で長期連載しています。

【321】かぶらの里、シルクの鉄路・・・上信電鉄(19)上州富岡駅と高原列車「あらふね号」。  


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【乗車経路】
上野0543======0728高崎 JR高崎線下り823M・普通高崎行(サロE232-3002)
高崎0739======0818上州富岡 上信線下り(普)9列車・普通下仁田行(150形第一編成)
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二日目は、上信電鉄一の途中主要駅である上州富岡駅から、起点の高崎までの区間の訪問だ。
上野駅始発の5時43分発高崎線・下り普通高崎行き(始発)に乗車し、高崎に向かおう。
7時半前に到着し、上信電鉄高崎駅の出札口で、今日の1日全線フリー乗車券(大人2,200円)を購入する。
今日の天気予報は風の無い快晴であるが、日中の最高気温は10度位で、真冬の二月としては暖かく、
空気がとても乾燥している。上州名物のからっ風もない、穏やかな冬日になりそうだ。

上信線東側の区間も、ユネスコ世界遺産に登録された富岡製糸場の他、城下町小幡(おばた)、
古代の石碑である多胡碑(たごひ)、山名八幡宮(やまな-)等の観光地や古い木造駅舎のある駅が多い。
木造駅舎を訪問しつつ、沿線の下車観光も楽しんでみよう。

そのまま、ホームで待ってる7時39分発の下り(普)9列車・下仁田行きに乗車。
到着する上り列車は、朝の通勤通学ラッシュでドッと降りてくるが、
下り下仁田行きは、二両編成のロングシートが埋まる程度の混み具合である。

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(7時39分発の下仁田行きに乗車。車内保温の為、ドアは改札寄りの一箇所しか開いていない。)

豚鼻ヘッドライトの150形第一編成が定刻に発車し、上信線名物の上下左右のボディシェイクをされながら、
山名駅、吉井駅、上州福島駅を経由して、上州富岡駅に約40分で到着する。時刻は、朝の8時を過ぎた所だ。

この富岡は、東西に流れる鏑川(かぶらがわ)と支流の高田川に挟まれた、
南北2km・東西4km程の広さの鏑川北岸の平坦地にある。
なお、富岡盆地と言われるが、山梨県甲府市の様に四方が険しい山に囲まれた感じではなく、
巨大な河岸段丘のテーブル状になっていて、開放感のある土地柄になっている。
夏は暑く、冬はからっ風が吹く北関東特有の気候であるが、年間を通じて穏やかだそうだ。
また、地震や水害も少なく、硬い岩盤上にあるので地盤が安定し、暮らしやすい風土との事。



この周辺は、旧石器時代から人が生活をしていたそうだが、本格的な町づくりは、
江戸時代初期の慶長17年(1612年)から始まったと言われ、町の歴史は比較的新しい。
元々は、南牧産(なんもく-)の御用砥石(※)を江戸に運ぶ為の中継地で、
中山道の脇街道である下仁田道の宿場町、周辺からの物資集積地や信州佐久との物資中継地として栄えた。
明治に入ると、国内初の近代製糸工場である官営富岡製糸場が建設され、急速な発展を遂げている。
また、この上信電鉄も、富岡周辺で生産された生糸を、東京に運ぶ為に敷設されたのが大きな理由である。
現在は、関越自動車道から分岐した上信越自動車道も経由し、東京方面との車の利便も非常に良い。

現在の市域は大変広く、東は東富岡駅先の鏑川(かぶらがわ)を渡った先までであるが、
西は一ノ宮と南蛇井(なんじゃい)も含み、千平駅付近まで広がっている。
戦後に周辺の村町を合併し、平成18年(2006年)に妙義町(みょうぎ-)も合併しており、
駅周辺1km圏内に約7,000人、市全体は約5万人で、市域が広い割には人口は少ない方だ。
なお、明治30年(1897年)頃の上野鉄道開通当時の人口は、約8,000人だったとの事。



上州富岡駅は、上信電鉄前身の上野鉄道(こうずけ-)が上州福島駅から延伸開通した、
明治30年(1897年)7月開業の古い駅で、起点の高崎駅から13駅目(開通当初は4駅目)、
20.2km地点、所要時間約40分、富岡市富岡、標高163m、1日乗降者数は約850人である。
終日社員配置の有人駅になっており、この駅発着の区間運転列車も運行されている。
なお、開業当時の駅名は富岡駅であり、電化改軌・国鉄貨車直通前の大正10年(1921年)に、
発着錯誤を防ぐ為に上州の名を冠している。
福島県の海岸部に富岡町があり、JR常磐線の富岡駅(※)があるので、その関係だろう。

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(建て植え式駅名標。)

改札口の若い駅員氏にフリーきっぷを見せて、見学撮影の許可を貰おう。
この駅では、列車の発着時以外は改札が閉鎖されるが、安全に撮影する事を条件に快諾して貰った。
二面三線を東西に配し、駅舎側の単式ホームと列車交換可能な島式ホームの組み合わせになっている。
単式ホームは下仁田方も接続されているが、高崎から富岡間の区間運転列車の折り返しに使われている。
昔は、ここに貨物ホームと集積場があったらしい。

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(駅舎側単式ホーム。この駅始発の上り高崎行き列車は、この単式ホームから乗車する。)

構内中央にある長さ70m級の島式ホームと旅客上屋は、この上信線の中でも最大級のもので、
H型鉄骨柱の波形スレート屋根ではなく、昔ながらの古レール柱のトタン葺きになっている。
旅客上屋の紅白ペンキが、発着する列車の車窓遠くからも良く見えて印象的だ。
なお、通常の左側進行駅であるが、逆番線表示になっており、駅事務室から遠い方が1番線上り高崎行き、
手前の2番線が下り下仁田行きになっている。駅舎側の単式ホームには、番線が振られていない。

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(上州富岡駅島式ホーム。大型の電光式広告板が多数吊り下がるのも、主要駅の貫禄を感じさせる。)
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(高崎寄りは、バリアフリー化工事で、車椅子通行可能のスロープと新しい手すり等も設置した。)

下り下仁田方を眺めると・・・この先1km弱の直線が続き、住宅の多い中を走って行く。
隣の西富岡駅を過ぎ、次の上州七日市駅までが、この富岡市街地にある駅になっている。
線路の遠く向こうには、大桁山(おおげたやま/標高836m)が、どっしりと構えているのが見える。

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(下仁田方。構内の長さがあり、本線ポイントは遠い。)

上りの高崎方も、住宅地の中の直線線路が続いている。
900m隣の東富岡駅までは、平坦な線路が続き、その先は河岸段丘を降りる急な下り坂になってる。
なお、西富岡駅、上州七日市駅や東富岡駅も、曜日時間限定の業務委託駅ながら、全駅が有人駅だ。

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(高崎方。駅舎側単式ホームの線路は、下り線に接続してから、本線に入る。)

高崎方にスロープと遮断器警報機付きの構内踏切があり、改札口を通って、駅舎を見てみよう。
昭和45年(1970年)に建て替えられた、鉄筋コンクリート二階建ての二代目駅舎は取り壊され、
平成26年(2014年)3月に三代目駅舎が、富岡製糸場の世界遺産登録に合わせて竣工した。
なお、二代目駅舎も、当時の上信線内で最も近代的な駅舎で、戦後昭和の雰囲気を醸し出していた。

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(島式ホームからの構内踏切と改札口。)

デザインコンセプトは、「身の丈にあった街の駅としての日常と、世界遺産の最寄り駅という非日常を
同時に包み込む大きな縁側の駅舎。」で、他のデザイン駅舎にない斬新さがあり、
グッドデザイン賞や日本建築学賞等も受賞しているそうだ。
全長90m・高さ6.5mの大屋根下に、平屋建ての駅舎やタクシー営業所等が置かれ、
製糸場をイメージする煉瓦壁が縦に装飾している鉄骨煉瓦造りも新工法との事。
伝統的・日本的な鉄道駅舎でも良いと思うが、世界から観光客を迎える玄関駅である事や、
明治から新しい時代の風を受け、先進的な気風であろう富岡らしい心意気に感じる。
また、以前、デキを模した公衆トイレが駅舎の並びにあったが、残念ながら、取り壊されている。

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(上州富岡駅。駅舎部分は無理に広くしておらず、二代目駅舎よりも小さくなっている。)

駅舎内はロビー風の造りで、駅出入口に防風扉があり、改札口と待合室の間にも内扉がある。
冬の季節風の強い上州の気候に対応した、防風・防寒対策であろう。
待合室の中央には、煉瓦台の真四角の簀子ベンチがあるのが面白い。
食券型自動券売機が二台置かれ、出札口も開放式カウンターで、鉄道駅のイメージが無い。

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(駅出入口と改札口。手動の風防扉は三方向あり、夏期は全て開放する事ができる。)
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(待合室内。改札口と完全分離されたので、この寒い時期でも、とても快適だ。)

駅前も一体整備されており、やや殺風景であるが、ロータリー、タクシー待機場、駐車場や
妙義山(みょうぎさん)方面行きのコミュニティバスの発着場がある。
なお、上信線終点の下仁田駅からは、妙義山へ行くバスは出ておらず、
この富岡駅から七日市と一ノ宮を経由して、妙義神社バス停まで1日4-5往復・片道45分程度との事だ。

駅前の下仁田方を見ると、富岡倉庫と言われる大きな乾燥繭保管庫が建っている。
煉瓦造り、大谷石造り、土蔵造りと三つの大きな倉庫が残っており、
大谷石造りの倉庫西の木造建築は繭乾燥場跡だそうだ。
また、富岡製糸場と関連が無いと言われているが、記録が残っておらず、詳細は不明との事。
近年中に、ガイダンス施設の「世界遺産センター」を開設する、市の計画が進められている。
(※市所有地であるが、現時点での敷地内の立ち入りは不可。公道からのみ見学可。)

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(富岡倉庫。明治43年築の煉瓦造り第一号倉庫と、大正14年築の大谷石造り第二号倉庫。)

なお、貨物ホームや側線は残っていないが、
現在の単式ホームのある西側に大きなスペースがあり、この大きな倉庫群がある。
国土地理院の昭和50年(1975年)頃の航空写真を調べてみると、この付近にあったと推測される。



ここで、上信電鉄が戦後最盛期だった頃に運行されていた「あらふね号」と、
線内急行列車「妙義号」について触れておきたい。

「あらふね号」は、国鉄からの直通乗り入れ列車である。
県境付近の荒船高原やヨーロピアンアルプス風の西洋式牧場・神津牧場(こうづ-)は、
東京方面からの行楽地や保養地として、昭和10年頃から人気が高かった。
そこで、昭和25年(1950年)5月以降、上野から下仁田間の直通客車列車を運行していたが、
下仁田は妙義山の登山口としても次第に注目を浴びる様になり、
昭和36年(1961年)4月から、最新型の湘南型電車四両編成に切り替えられ、
高原列車「あらふね号」として運行を開始した。あの金太郎塗りの国鉄80系電車が使われたそうだ。

なお、愛称の由来は、あのテーブル状の荒船山(標高1,423m)であるが、
富岡や下仁田付近の線路からは、四ツ又山(下仁田富士)や大桁山の後ろにあって、全く見えない。
車窓から全く見えない山の名を愛称にするのも、珍しいと言える。

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(タブレットの受け渡しをする、国鉄80系あらふね号。高崎駅での撮影と思われる。
   ※時刻表・画像共に、上信電鉄百年史より引用。)

■昭和37年7月の高原列車(電車)「あらふね号」時刻表■

(下り)(上り)
0100上野2054
0145赤羽2040
0144大宮2017
0158上尾2006
=↓=吹上1939
0236籠原=↑=
0242深谷1921
0246阿部=↑=
0254本庄1909
0304新町=↑=
0320高崎1844
0413下仁田1713 ※上信線内は主要駅のみの停車と思われる。

下り列車は上野を深夜1時発、早朝4時13分に下仁田に到着するハードな夜行列車であったそうだが、
非常に好評を博し、平均乗車客数は350人を超えたそうだ。
これにより、4月から6月の休日1往復のみの運転であったが、期間延長がされて、11月上旬まで運行した。
また、電車化した翌年以降、乗降をスムースにする為、この上州富岡駅等のホーム嵩上げを行っている。
この「あらふね号」は、昭和44年(1969年)9月まで運行され、末期は国鉄115系4両編成だった。

また、昭和37年(1962年)10月にダイヤ改正時に、上信線内の急行列車も初めて運行され、
「急行妙義号」の愛称を与えられて、1日1往復運行した。
高崎から下仁田間の途中停車駅は、吉井駅と上州富岡駅のみの俊足な列車で、
所要時間は上り43分、下り44分と各駅停車よりも20%も短縮したそうだ。
後に、急行停車駅の追加や快速・準急の運行も行われたが、上信線内の優等列車の運転は、
ワンマン運転が始まった平成8年(1996年)10月で終了となっている。
時刻表の列車番号に普通列車を表す(普)があるのも、その名残だろう。

上信電鉄の鉄道部門は、急行運転開始の2-3年後の昭和41年(1966年)の816万人が、
年間利用客数の最大となっており、昭和38年(1963年)から昭和47年(1972年)の10年間は、
年間700万人を超える最盛期で、上信電鉄オリジナルの200形電車も、この時期に導入されている。
なお、上信電鉄は戦前に電化を完了していたので、終戦後も比較的早く輸送量が回復しているが、
当時は電力事情が悪い為、国鉄から緊急時の電力融通をして貰っていたそうだ。




産業教育交通に
甘楽(かんら)屈指の都会なり
天下に名高き原製糸
中学校に女学校

上信電鐵鐡道唱歌より/北沢正太郎作詞・昭和5年・今朝清氏口伝。
※原製糸=明治35年(1902年)から昭和13年(1938年)までの原合名会社時代の富岡製糸場のこと。



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(※南牧産の御用砥石)
現在の南牧村で産した砥石は品質が大変良く、幕府御用品の指定を受けていた。
表面が虎の模様状なので、「虎砥」と言われ、昭和後期まで採掘されたが、現在は閉山している。
地元には、砥沢の字(あざな)や砥沢神社が残っている。
(※常磐線富岡駅)
明治31年開業。東日本大震災で被災し、駅は流失しているが、2017年末に再開の予定。

【参考資料】
上信電鉄百年史-グループ企業と共に-(上信電鉄発行・1995年)
ぐんまの鉄道-上信・上電・わ鐵のあゆみ-(群馬県立歴史博物館発行・2004年)
群馬県公式HP・群馬繊維スポット「富岡倉庫」

2017年3月11日文章追記

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category: 上信電鉄2日目 全12話

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