hmdの鐵たびブログ ローカル線の旅

のんびりローカル線の鉄道旅を、写真を中心に「見る紀行文」で長期連載しています。

【特別記事345】国鉄分割民営化と「我田”残”鉄」に思う[後編/最終回]  


前半では、国鉄の巨大債務問題から、分割民営化のあらすじを追ってみました。
当ブログでは、鉄道ファンではない読者の方が大変多く、当時、まだ生まれていない若い方もいると思います。
やや難しい部分もあると思いますが、大凡の流れや背景事情を把握していて頂ければ、幸いです。
最後は、自ら取材をして感じていることや地方ローカル線のこれからについて思うことを、
拙論ながら、書いてみたいと思います。

《3.「我田”残”鉄」と地方ローカル線》

さて、タイトル後半の「我田”残”鉄」でありますが・・・
国鉄時代、政治的思惑で建設されたローカル線を、当時は「我田引鉄」と揶揄したのも言い当て妙で、
分割民営化以降も、いつかのローカル線の廃止危機が議論に上がりましたが、
薄々とながら、その中に似た様な「我田”残”鉄」を感じる時があります。
沿線地域や鉄道ファン的には、存続が好ましいのですが、自らの目でローカル線を複数回取材していると、
実体のない存続はかつての国鉄赤字ローカル線と同じで、危険であると正直感じるのです。

ローカル線廃止の兆候や議論が出ると、沿線住民や自治体が廃止を大々的に反対するのですが、
反対を主張する割には、自らが利用していないと言う大きな矛盾です。
特にJRのローカル線沿線にその傾向が強く、反対や陳情を繰り返せば、
一時期の国鉄の様に、「JRが何とかしてくれるだろう。」と言う、
寄らば大樹的な甘い期待を感じたりもします。
実際、取材時に地元の人達から、「1-2時間に1本しかない。」、「運賃が(ガソリン代より)高い。」
など、必ずと言って良い程聞きますが、
「地元の人が乗らないから、減るんですよ。このままでは、本当に廃止になりますよ。」と、
余所者の自分が叱咤する程に乗っていないのが実情です。
今の一時的な鉄道ブーム、鉄道ファンや観光客がたまに乗るだけでは、支えきれないのです。
一番重要なのは、地元の人達の恒常的な鉄道利用なのであり、
その状況に追い込まれた時には、相当な危機的状況であることを認識しないといけないです。

なお、鉄道ファンの廃止反対は、趣味的要素や国鉄分割民営時の感情が絡んでいる場合があるので、
今回は語りません。当ブログの伏線となっている「町と鉄道」の視点から、純粋に論じたいと思います。

分割民営化直前に、国鉄赤字ローカル線の大規模廃止で一旦解決した様にも見えますが、
本質的に、JRのローカル線や地方ローカル鉄道(民営・第三セクター)も含む赤字問題は、
国鉄の分割民営化後もずっと燻り続けたままです。
この30年で、国内の人口や産業も大きく変化し、ほぼ全てのローカル線で利用客の減少に再直面しています。
一般的に言われる地方のモータリゼーション化は、一人一台の自動車保有まで行き着いた感もあり、
根本的には、もっと大きな値である人口の減少、少子化と高齢化によるもので、
最も深刻であるのは、地方経済を支える地方中核都市の人口減少と経済活動の低下です。
実際、地方民営鉄道の多くは、昭和中頃の最盛期の1/3から1/4まで利用客数が落ち込んで、
経営維持の限界ラインを越えており、JRのローカル線も同じ傾向でしょう。
今ある地方民営鉄道も、高収益のバス・タクシー事業や不動産事業等で支えている場合が多く、
良く知られている銚子電気鉄道のぬれ煎餅販売の奇策もしかりです。

個人的には、この先の20年間が、ローカル線存続の重要な時期になると感じ、
「赤字83線」、「特定地方交通線」に続く、大規模廃止の第三波が来る可能性があると思います。
先日、第三セクターの秋田内陸縦貫鉄道と由利高原鉄道の維持困難の話が、秋田県から急遽発表されたり、
最近のJR北海道のローカル線維持問題も、その兆候であるのではないかと心配する次第です。

また、「国鉄を分割したから、ローカル線を維持できないんだ。」と言う意見も多いのですが、
37兆円もの巨大債務を抱え、利子払いにさえ困窮した国鉄が支えられるとは思いません。
国鉄の前は、省線(鉄道省時代)、もっと以前は、官鉄(官営鉄道の略)と呼ばれていましたが、
日本の地方鉄道の普及は国営ではなく、元々は、日清戦争以降の明治中期から大正にかけて、
高収益な新しい事業として、各地方に発達した民営鉄道会社によるものです。
東北本線などを開業した日本鉄道などが有名で、後年の政策により、国が買い上げた路線が多いのです。
当時は、地方の有力者や資産家を中心に綿密な鉄道計画を立て、建設されました。
地元に密着した鉄道であり、その地域の特性も最大限に取り入れたものですから、マッチングは良く、
地域交通の改善や地場産品・生活物資の輸送と活躍し、地元住民の支援も大変厚かったと聞きます。
逆に、国営化したら、知らぬ間に地元とのマッチングが悪くなり、支援も薄くなったのではないでしょうか。

なお、好調そうに見えるJR東日本を見ても、分担する国鉄債務と長期債務残高が約3.2兆円もあります。
年間収入は約2兆円(単独決算)ありますが、鉄道は人・設備共に投資や維持コストが大きい体質な上、
巨額の債務返済の重荷もあり、1兆円以上の巨大企業でありながら、純利益は年200億円位しかありません。
経営の苦しいJR北海道や四国を、巨額援助する余裕は、殆ど無いのが実情です。

また、JR北海道・四国・九州の各社については、「他のJRグループからの援助がない。」との意見も
ありますが、分割民営化時には、国鉄債務分担返済全額免除と総額1.3兆円の経営安定化基金の運用益が
設定されています。
それとは別に、国土交通省などから、支払利子負担・無利子貸付と助成金・地方税軽減の合計約1兆円の
事実上の直接補助が行われており、決して、看過している訳ではありません。
JR九州が来年度に株式上場する予定から、その政府保有株式の売却資金も活用する方針の様です。

民営化の際、分社化せずにそのまま全国一社で経営する案も上がりましたが、
労働組合の激しい抵抗により、体質までを急に変えるのは困難であることや、
巨大すぎる企業によって、国鉄の悪い点を引き継がない意図もあったと思います。
大きな船は足元はよく見えず、内部の既得権益も強く、急には進路が変えられないのです。
小さな船は足元も良く見え、状況に応じて素早く対応できることや、経営的大暴走を防げる長所もあります。
それは、近年の有名大企業の不祥事や経営判断ミスを見れば、納得できるでしょう。
個人的には、分社化した今の形のほうが、良かったと考えています。
(分社化したと言っても、一般の民間企業から見れば、巨大企業です。)


(昔ながらのタブレットを運転士に引き渡す駅長氏。千葉県内房エリアの小湊鉄道上総牛久駅にて。
   小湊鉄道は、無理な設備投資をせず、古い車両や設備を大切に使うのが社風の一部になっている。
   時代遅れな感もあるが、非常に堅実な経営であり、それが幸いにしてノスタルジーさが生まれ、
   沿線の長閑な里山風景の魅力と合わせて、鉄道ファンではない一般観光客も多く訪れる様になっている。)

《4.鉄道施策と地方ローカル線の再自立》

日本経済のバブル崩壊は、1980年代中頃からの過剰な不動産投資が原因で、1990年代当初に崩壊しました。
国鉄の巨大債務問題も、需要供給バランスを無視した「鉄道建設バブル」であったと思います。
幸運にも、不動産投資のバブル崩壊との時期が、五年程ずれましたので、この程度で済んだのかもしれません。

国の機関から離れたことで、政治的思惑の圧力と経営的暴走はなくなりましたが、
分社化された影響も大きく、日本全体の鉄道のあり方の方向性が、曖昧になっていると感じます。
新幹線については、国が主導しており、世界の鉄道の歴史そのものがスピードアップの歴史であることや、
各地方の中心都市と結ぶ経済一体化の効果も大きく、国家の繁栄に十分に寄与していると思います。
一方、人口減少や地域経済衰退が見られるローカル線のあり方を、早急に示さなければならないでしょう。
この点は、今後の国づくりや交通施策、国土末端部の防衛にも直結する問題点でもありますので、
国の主導にて、まとめて欲しいとも思います。
JR北海道のローカル線維持問題も持ち上がっている手前、早急な案件であると感じますし、
事実上、国の100%管理下にある「新生国鉄北海道」ですから、そう難しくはないはずです。

また、大正初期に建設された古いローカル線が、開通から100年を経過しており、
信号保安設備や鉄橋などの架け替えなど、大規模な設備更新が必要な時期になっているのも、
沿線人口や利用者減に次ぐ、ローカル線存続に関わる第二の難問になっています。
実際、JR三江線の廃止は、利用客減もありますが、この更新費用の問題も大きかったと聞いています。

ちなみに、本格的な更新工事の場合、1kmあたり単線でも5,000万円かかると言われており、
路線長10km程度の小さなローカル線であっても、5億円かかることになります。
しかし、路線によっては、過大な設備投資となり、更新工事そのものが不良債権化する恐れもあります。
鉄道ネットワークを残す方が極力好ましいですが、極小輸送量路線のバス転換が必要になるかもしれません。
バス運行の為のコストは鉄道の1/10と言われ、市町村役場や病院にも直結できますから、
地元高齢者にとって便利な点や需要供給の変動に対応しやすい長所もあり、
既存の鉄道と地域バスとの連携や需要に見合ったバス転換が、今後必要になると思います。


(家族連れで賑わうSLもおか号。栃木県南部の旧国鉄真岡線・真岡鉄道真岡駅にて。
   全国の第三セクター鉄道の中でも、唯一、蒸気機関車牽引のSL観光列車を定期運行する。
   路線は国鉄時代の面影を残すが、真岡駅には、大型展示館や貨車などの静態保存展示も整備され、
   焼き物の町・益子観光と合わせて、週末は家族連れで賑わっている。)

第三セクター鉄道や地元の鉄道維持意識の強い地方民営鉄道を何回か取材していると・・・
他の鉄道にはない、明白な違いに気が付きます。
駅員や地元の人達の話を聞いて回ると、「地元に密着し、支援されてこその鉄道。」と言う信念や、
マイレール意識が非常に強く、その実行力や協力体制があることです。
その点は、ローカル線本来の役割と共有感覚に近く、大いに参考になるのではないかと思います。
逆を言うと、JRのローカル線沿線は地元の熱意が足りず、危機感が非常に希薄に感じます。
鉄道を残すならば、「いつまでも、安寧ではない。」と言う危機感とマイレール意識が必要です。

鉄道ファンの一部には、国鉄やJRから見切りを付けられた、第三セクター鉄道を見下す悪い風潮がありますが、
今、最も存続に積極的でホットであるのは、JRではなく、
全国各地の第三セクターの鉄道路線ではないでしょうか。
また、脆弱な設備投資が逆に幸いして、貴重な国鉄遺産が残っている路線も多く、
わたらせ渓谷鉄道や天竜浜名湖鉄道は、駅舎や橋梁などの大量の有形文化財も有しており、
見学ツアーやスタンプラリー等で、観光集客に上手く活用しています。
他、いすみ鉄道の国鉄型気動車動態保存や真岡鉄道のSL列車運行、
観光需要掘り起こしや利用向上に積極的な地方民営鉄道なども、地元と連携して長年活動しており、
もっと注目をして、参考にすべき点であると思います。

現実として、利用客の多い大都市部、幹線と亜幹線は鉄道会社単独で維持ができますが、
地方の人口減少と産業構造の変化で、ローカル線は単独で維持できなくなってきています。
官民合同出資の第三セクター、または、沿線自治体の直接支援無しでは、難しい時代に入っているとも言え、
国鉄赤字ローカル線の頃とは、また少し違う状況になっています。
しかし、国鉄時代の一元管理的な発想では、「第二の国鉄」になってしまう危険性があります。
30年前の一回目は、ギリギリで回避できましたが、二回目のデフォルトは、もう出来ないのです。
新しい発想と取り組み、地方鉄道の再自立が必要になっていると思います。

(おわり)



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