hmdの鐵たびブログ ローカル線の旅

のんびりローカル線の鉄道旅を、写真を中心に「見る紀行文」で長期連載しています。

【272】一富士、二煙突、三かぐや・・・岳南電車(2)JR吉原駅と岳南電車吉原駅。  


田子の浦港から、駅まで戻ってきた。
このJR吉原駅は、古くは、地元の町名(当時は村)である、鈴川駅と呼ばれた。
五つもの河川が注ぎ込む田子の浦港を挟んで、西隣には富士駅があり、
駅間距離は4.9km、所要時間4分程度である。なお、富士川は、富士駅の西に流れている。

駅の開業は、富士駅まで開通した明治22年(1889年)2月であり、
同年7月に、新橋から神戸までが開通し、今日の東海道本線の原形となっている。
当時から人や物資の往来が多かった為か、開業一年後には、軽便馬車鉄道である富士馬車鉄道
(軌間609mm単線/吉原-富士宮間14.1km/後年は、根方軌道に譲渡)も、開通している。
グーグルマップ・東海道本線吉原駅

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(昭和45年に建てられた、二代目駅舎である。無粋な昭和国鉄風コンクリート駅舎だ。)

吉原は、江戸時代から、豊富な富士山の湧き水を利用して、三椏(みつまた)栽培が行われ、
それを原料とした和紙の生産が盛んになり、駿河半紙を代表する上質紙の産地として有名だった。
なお、先程の妙法寺の達磨市も、この和紙の端くれを利用した、特産品がルーツである。
明治時代以降は、機械化による洋紙の大量生産が始まり、国内一の製紙の町になっている。
また、各製紙メーカーから鉄道を利用した製品出荷が行われており、岳南電車からJRへ、
大量の貨車の受け渡しを行っていたので、貨物留置線が何本もある大きな駅になっている。
しかし、JR貨物の合理化により、貨物の取り扱いは平成24年(2012年)春に、
全廃となってしまった。

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(東側ヤード。線路沿いの日本製紙に貨物専用線が延びていた。ヤードは駅西側にもある。)

JRホームの構内連絡跨線橋を通って、岳南電車に直接乗換ができるが、
線路下の歩行者用地下道とJR吉原駅北口からの道路を通って、行ってみよう。

岳南電車の開業は、戦前と思いきや、戦後と新しく、終戦直後の昭和24年(1949年)11月である。
数多くの地方鉄道の開業に大きな影響を与えた、大正時代の軽便鉄道法の直接的な影響は無く、
三島駅から伊豆半島を南下する伊豆箱根鉄道グループとして、先ずは、吉原本町駅まで開業した。
また、開業時から、国鉄と同じ狭軌1,067mm(サブロク)の直流600V電化路線として開業しており、
現在は、路線キロ9.2km、駅数10駅、所要時間片道約20分のミニ民営鉄道になっている。

開業は戦後であるが、地元の鉄道構想は明治末期からあった。
浜沿いに東海道本線が開通すると、内陸側の吉原町周辺や沼津の住民から鉄道敷設の要望が高まった。
現在の吉原本町付近と、東は沼津、西は富士市鷹岡(JR身延線入山瀬駅)や富士宮を結ぶ、
根方鉄道(ねかた-)の構想が持ち上がっている。
大正初期と太平洋戦争中に具体的な敷設計画が浮上したが、当時の経済状況から頓挫しており、
戦後になって、その構想の一部が岳南鉄道として開通した様な感じである。
なお、前出の富士馬車鉄道は、買収や譲渡の後、大正13年(1924年)に廃止になっている。

ここで、簡単に岳南電車の歴史をまとめてみよう。
昭和中期以降も、鉄道貨物輸送が大変多く、国内では珍しい「貨主客従」の路線であった。
この比重は、秩父武甲山の石灰石を輸送する、関東の秩父鉄道等に似ている。
なお、本来の鉄道は貨物がメインで、旅客はその運行の合間を利用するサブであり、
旅客輸送に偏重した現在の日本の鉄道は、世界的には異端であると言える。

◆岳南電車(岳南鉄道)の略史◆
昭和11年(1936年) 吉原駅から、依田原町の日産工場(現・ジヤトコ)まで、貨物専用線を敷設。
昭和24年(1949年) 日産貨物専用線を利用し、吉原駅から吉原本町駅まで、岳南鉄道が開業。
昭和27年(1952年) 身延線入山瀬駅までの延伸許可取得。着工はせず、後年に失効。
昭和28年(1953年) 現在の終着駅である、岳南江尾駅まで開通。
昭和31年(1956年) 伊豆箱根鉄道グループから、富士急行グループに。
昭和44年(1969年) 架線電圧を直流600Vから、直流1500Vに昇圧。
平成24年(2012年) 鉄道貨物輸送の全廃。
平成25年(2013年) 岳南鉄道から、子会社の岳南電車に鉄道事業を移管。

なお、平成24年(2012年)の鉄道貨物全廃により、経営状態が急速に悪化している。
今後、地元自治体の支援を受ける為、経営のスリム化と健全性を明確にする目的から、
今までの経営母体であった岳南鉄道から、子会社の岳南電車に鉄道事業を移管した。
また、バス事業も展開していたが、富士急バスに譲渡している。



細い路地に面した岳南電車の吉原駅に入ってみよう。
駅舎は、屋根の高い大きな切妻木造建築で、JRホーム側は金属トタンで補修されているが、
妻面や北側出入り口には、木造部分が露出している。
妻面は、くの字に曲げた古レールでY字柱を造り、補強してあるのが面白い。
勿論、この駅舎は、開業当時のものであろう。

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(青帯の機械は、TOICA対応のJR東海の入出場記録機。出入り口側改札は使われていない。)
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(東側妻面は、碁盤目状の壁面が珍しい。これは、駅舎を短尺化した跡らしい。)

コンクリートの小刻みな古階段を上がると・・・
JR連絡口、駅出入り口、ホーム側と取り囲む様に三方に改札がある。
ホーム側には、可動式の仕切り柵があり、鉄道駅としては開放的な改札だ。
列車の到着前は閉めておき、到着時の混雑時には開放し、
朝夕のラッシュ時は、複数の駅員が並んで改集札する。
また、改札上部には、最近設置されたらしい、駅時刻表とカラー観光案内板がある。

出札口の女性駅員氏から、全線1日フリー切符を購入し、時刻表と沿線マップも貰おう。
懐かしい横長のD型硬券切符で、700円で全線乗り放題である。
なお、JRの連絡硬券切符も取り扱いがあり、JR吉原駅の硬券取り扱いは無いので、
この吉原駅発のJR東海線のみの区間の硬券乗車券が入手できる。
硬券収集ファンには、見逃せない所だ。

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(ホーム側から改札口を望む。右は駅事務室、左は乗務員区。オリジナルグッズ販売も多い。)

ホームに進むと、木造駅舎に接続した屋根の高い鉄パイプ柱の大型旅客上屋があり、
岳南電車独特のきのこ型で、無機質な感じがする中に複雑な梁構造の美しさが楽しめる。
殆どの駅では、このきのこ型旅客上屋が設置されており、岳南電車のトレードマークになっている。
ホームは、緩くカーブしながら先細になってゆく、頭端式の二線一面の幅広ホームで、
客車ホームではないが、少し低めの古い電車ホームの為に車両の乗降口との段差が大きい。

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(優美な梁曲と大きく湾曲したトタン屋根が目を引く。木造とまた違う良さを感じる。)
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(2番線の車止め横には、古い木造小建物がある。使われているかは不明だが、倉庫らしい。)

岳南電車の各駅は、全ての駅から富士山が望め、これも岳南電車の見所だ。
ホームには、ビュースポットの絵表示と足型があるのが、面白い。
また、平成26年(2014年)に、情緒のある夜景が特徴の「日本夜景遺産(施設型)」として、
岳南鉄道の駅や列車など全体が認定されている。
これを機に、富士山の世界遺産登録と合わせて、観光客誘致にも力を入れているそうだ。

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(青空に浮かぶ様な冠雪が美しい富士山も、冬の見所である。※追加取材時に撮影。)

ホーム先端から、吉原本町方を眺めると・・・
岳南線とJRとの貨物渡り線と貨物留置線があり、旅客線は一番北の倉庫側である。
貨物列車は長編成であった為、渡り線手前の貨物留置線もかなりの直線距離があり、
出発線と到着線に分かれている。
最盛期の昭和44年(1969年)には、年間100万トンの貨物の取り扱いがあり、
1日平均2,700トン、ワム15t貨車積み換算で約180両もの貨車が行き来していたそうだ。
かつては、旅客線よりも、貨物線や貨物留置線の方が、路線キロが長いと言われていたとの事。

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見学していると・・・「フィー」とした空気式汽笛と共に、
EF210形0番台牽引の東京方行き高速コンテナ列車が通過して行く。
吉原駅の貨物取り扱い廃止前は、上下各1本が停車して、荷扱いを行っていたそうだ。
手前の駅舎側に3番線があるが、駅舎並びにあった貨物ホームに接する元貨物側線のレールらしい。

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高速コンテナ列車が通り過ぎ、暫くすると・・・赤い湘南顔の岳南7000形単行電車が到着。
元は、東京の京王電鉄3000系の両運転台化改造車である。
この折り返し列車に乗車して、ロケを兼ねながら、終点の岳南江尾駅まで行ってみよう。
停車中の7000形から、「ツ、ツ、ツツツ・・・」と、コンプレッサ音が大きく響いているのも、
懐かしい昭和の電車の音だ。

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岳南電車吉原駅では、許可を取って撮影しています。

【参考資料】
アイラブ岳鉄(鈴木達也著・静岡新聞社刊・2001年)

2016年12月21日再編集(画像入れ替え・校正)

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category: 岳南電車 全13話

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