hmdの鐵たびブログ ローカル線の旅

のんびりローカル線の鉄道旅を、写真を中心に「見る紀行文」で長期連載しています。

【219】あかがねの鉄路を追って・・・わたらせ渓谷鐡道(27)大間々駅下車観光[その2]ながめ余興場と古い商家。  




神明宮の前まで戻り、県道を南に歩いて、大間々駅(おおまま-)の東側に行こう。
登り坂の小さな路地に入り、家々の間を抜けると・・・
ながめ余興場・ながめ公園【双眼鏡マーカー】に到着する。

大正14年(1925年)に、ながめ遊園地として開園し、
高津戸峡の絶景と花々の眺めが、当時の関東一円に知れ渡り、大変な人気があったそうだ。
現在も、大間々町の代表的な桜花見スポットになっている。


(ながめ余興場・ながめ公園。)

昭和12年(1937年)には、木造2階建ての劇場・ながめ余興場が建てられている。
東京・歌舞伎座を模しており、人力で回せる直径6.3mの廻り舞台や花道、
床暖房付きの桟敷席(さじきせき)や二階席もある、立派な造りだそうだ。
現在は、大間々町(現・みどり市)の公共施設になっており、指定重要文化財になっている。

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(ながめ余興場。建物は二階建て延べ約280坪、観客収容は650人。)

立派な唐破風付きの大きな玄関が、非日常の楽しみへと誘う様である。
最も栄えたのは、昭和20年代から30年代だそうで、当時の有名流行歌手も公演をしたそうだ。
なお、戦前に建てられた伝統的劇場建築で、現存するものは、全国的に大変珍しいとの事。
テレビ等の娯楽が少なかった頃は、町の人達の大きな楽しみとして賑わったのだろう。
現在も、芝居、寄席、発表会や歌謡コンサート等に使われており、館内見学も可能だ(※)。

また、ここからの渡良瀬川の眺めは、春はツツジと桜、秋は菊が満開になり、
「関東の耶馬渓(やばけい※)」とも言われている程の絶景になっている。
特に、秋の「関東菊花大会」は、菊人形・大菊・盆栽菊等が千鉢以上展示され、
多数の見学客で賑わうとの事。

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(ながめ公園からの渡良瀬川。この付近を過ぎると、渓谷は終わり、両岸が開けている。)

暫く、花見を楽しもう。春うららな、ゆったりとした時間が流れて行く・・・


(ながめ余興場と大桜、太鼓橋。)



ながめ余興場から、大間々を南北に縦断する、大通りの国道に向かって歩く。
大間々は、足尾・日光に向かう国道122号線と、渋川に向かう国道353号線の
分岐地点にもなっている。車の交通量も多く、朝夕は激しく渋滞するそうだ。
市場町・宿場町として大変栄えた大間々は、大火の多い町でもあったが、
古い商家や懐かしい昭和高度成長期の住宅が、今でも数多く残っている。

ながめ公園から神明宮前に戻り、わたらせ渓谷鐡道の踏切を横断して、
二本目の大きな通りが国道122号線になり、幅の広い片側1車線の道路になっている。
国道交差点脇には、133年ぶりに復活した、三丁目常夜灯【青色マーカー】が建っている。

江戸時代末期の文化・文政年間(1813-1825年頃)に、
この通りの中央にあった堀に設置され、街区の境に五基の常夜灯があったそうだ。
しかし、明治10年(1877年)、明治政府の命令で中堀を埋め立てる事になり、
地元神社の境内等に移設されている。


(国道交差点脇に建つ、三丁目常夜灯。)

町発展の歴史と重なる常夜灯への大間々町民の思いは、とても強いとの事。
そこで、地元の老舗商店主を中心に、元の場所に戻そうとの気運が高まり、
平成22年(2010年)春に、うち三基が元の場所に戻っている。
また、大間々の商業関係者の心得として、「売り手よし、買い手よし、世間よし」の
「三方良し」があり、この心意気も大きく働いたそうだ。
近江から大間々にやって来た、近江商人がもたらした心得である。



三丁目常夜灯から、南に向かって、国道沿いに歩いて行こう。
高層建築は少ないが、住宅や商店が多く、他のわたらせ渓谷鐡道の駅周辺と違う雰囲気である。

本町通りと言われる、この国道沿いには、幾つかの個人商店が今も営業している。
かつては、関東屈指の絹市が開かれ、足尾方面への玄関口・銅街道の宿場町として、
江戸中期頃までは、桐生を凌ぐ繁栄していたらしい。
創業100年を超える店も、30店以上もあり、三丁目と四丁目に集中している。


(国道122号線大間々駅入口交差点から、桐生方を望む。※追加取材時に撮影。)

暫く、歩いて行くと・・・造り酒屋の奥村酒造【酒マーカー】(※)がある。
江戸時代中期の寛延2年(1749年)から酒造を営んでいる、約260年の歴史のある蔵元だ。
地元では、「和泉屋(いずみや)」とも言われ、近江商人の奥村久左衛門が江戸時代に来町し、
当初、醤油を醸造していたとの事。昭和16年(1941年)までは、醤油を醸造していた。

清酒「福榮(ふくえい)」と「起龍(きりゅう)」が代表銘柄で、
昔と変わらない製法を今も守り、本来の日本酒の風味を活かしているとの事。
すっきりとした喉越しに、ふくらみのある味と甘い香りが特徴になっている。

なお、江戸時代の大間々には、造り酒屋が六軒もあったそうで、うち四軒は近江商人の店だった。
酒造りに適した土地柄と、人々の往来も多かったので、自然にそうなった様である。

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(奥村酒造の店蔵。県内最古と言われる、明和8年(1771年)築の仕込み蔵もある。)

奥村酒造の向かい側にも、旧・野口材木店とコメヤ商店の店蔵【黄色マーカー】がある。
どちらも、通りに面した間口は狭いが、敷地は裏通りまで続く、大屋敷になっている。
特に、旧・野口材木店は、江戸時代の商家の間取りを、そのまま残しているそうだ。

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(旧・野口木材店。二階にも、木枠窓が残る。)
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(コメヤ商店は、店名の通りに米屋(米穀商)らしく、現在も営業している。)

近くには、大間々博物館(愛称・コノドント館)【博物館マーカー】もある。
大正10年(1921年)に建てられた、地元産業・企業を支援した大間々銀行本店で、
群馬県下で最初の私立普通銀行であり、後に、現在の群馬銀行に合併されている。
銀行の移転後は、大間々町(現・みどり市)の歴史民俗博物館になっており、
館内は出来るだけ改修をせず、建築当時の雰囲気を残している。

総レンガ造りの大正洋風建築に見えるが、木造二階建てで、外壁に煉瓦をタイル状に貼ってある。
タイル下は、大谷石を挟む様に積んであり、耐火性がより良くなっているそうだ。

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(大間々博物館コノドント館・旧大間々銀行本店。)

ちなみに、コノドントとは、1mmに満たない何億年前の水棲動物の小化石で、
鰻の祖先の歯ではないかと考えられている。
これは、地層の年代を調べる基準となる化石(示準化石)として、利用されているそうだ。
昭和33年(1958年)、大間々に住む研究者の林信吾氏が、国内初の発見したのが由来との事。
(休館日は毎週月曜日、祝日の場合は翌日休館、入場料大人100円。)

更に、国道を南下すると・・・この周辺でも、広大な敷地と大きな建物を擁する、
日本一醤油・岡直三郎商店【工場マーカー】がある。

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(日本一醤油・岡直三郎商店の店蔵。)

(店舗横の鉄製門扉の看板。日本一の文字デザインが面白い。)

店頭には、巨大な鉄釜が鎮座している。
生醤油(きじょうゆ)の生きている酵母を殺菌して、醤油の色・味・香りを整え、
長期保存が出来る様にする工程で使った、2,000Lもある火入れ釜らしい。
太平洋戦争の金属供出の際は、このひとつだけが、防火用水用に残されたそうだ。


(火入れ釜。明治初期から昭和15年頃まで、使われたそうだ。)

天明7年(1787年)、近江の日野から大間々にやって来て、創業した岡直三郎商店は、
群馬県下で最古の醤油醸造メーカーになっている。
「河内屋」の屋号で創業し、その屋号で、今も呼ばれているそうだ。
国産大豆と天然醸造にこだわった、本物の醤油造りを継承しているとの事。
なお、神戸駅で食べた「やまと豚弁当」は、ここの醤油を使っている。

明治の初めに建てられた、重厚な二階建ての店舗の引き戸を開けると・・・
所狭しに商品がずらりと並び、醤油の濃厚な香りが漂う。
中年女性店員に工場見学を申し出た所、可能との事で、お邪魔する事にしよう。


(岡直三郎商店の店先。)

ポリキャップを借りて、頭に被る。
創業家の家族らしい若い男性の案内で、丁寧な説明をして貰えた。
店蔵の後ろには、三つの煉瓦煙突が聳え、大きな蔵が密集して幾つも建っており、
むせる様な濃厚な醤油の香りが立ち込めている。

大豆を蒸す麹室(こうじしつ)を見学した後、仕込み蔵に入ると、
薄暗い蔵の中に大桶が並ぶ様に圧倒される。
案内をされて、桶の上に登ると・・・
上面に無数の麹や泡が浮かび、蔵の梁に麹がびっしりと付いている。
これは、蔵麹(くらこうじ)と言うそうで、天然醸造の仕込み蔵の証だそうだ。


(仕込み蔵の大桶。右側にも、大桶が並んでいる。※撮影と掲載承諾済。)

昔ながらの天然醸造法を守り、味が濃く、塩分が多い典型的な関東醤油を造っており、
木桶は人の背よりも高く、一番大きな七尺の大桶は、深さ210cm、直径260cmもある。
現在、明治から昭和初期に作られた、約100本の大桶を大切に使っており、
工場内の殆どの建物が仕込み蔵になっている。
なお、とても大きな桶なので、樽を置いてから、蔵を建てたそうだ。
また、明治28年の町の大火の際に水が不足し、岡直三郎商店の大量の醤油を使った珍話も残っている。

醤油の天然醸造法は、酒に似ているそうで、10月から6月にかけて寒仕込みをし、
夏に発酵させ、冬に熟成させる。
機械を使わない天然醸造の為、1年以上の時間と手間、熟練した職人の経験が必要との事。
大間々は、日中や季節の寒暖差が大きく、深井戸の名水が豊富に得られる事から、
酒や醤油造りに適しているそうだ。

約40分程の見学をし、大通りに面した店舗に戻る。
急な見学申し込みの御礼に、国産有機丸大豆・有機小麦使用の二段仕込み醤油の
「日本一しょうゆ」(瓶入り500ml/税込1,200円)と、
「忠兵衛のつゆ」(瓶入り500ml/税込598円)を購入しよう。


(代表商品の日本一しょうゆと忠兵衛のつゆ ※帰宅後に撮影。)

この日本一しょうゆは、岡直三郎商店の代表商品として、
木桶仕込みに普通醤油の二倍の原材料と熟成期間を掛けた、まろやかで濃密な最高級醤油だ。
醤油自体に非常に重みがあり、リッチな味と風味がする。
特に、国産有機大豆は、ダイヤモンド並みの貴重なもので、小麦も上州産の有機小麦を厳選している。

つゆは、円やかで、自然な風味が特徴だ。
風味が大変良く、大手メーカー製品とはひと味もふた味も違う。
商品名の「忠兵衛」は、創業者の初代・岡忠兵衛氏の名前からとの事。

また、人気の醤油ソフトクリーム(300円)も、食べる事が出来る。
今回は、特別に予約無しで、工場見学をさせて貰ったが、事前予約して欲しいとの事だ。

【岡直三郎商店大間々工場のご案内】
営業時間・平日は8時30分から17時、土日は9時から16時。
工場見学可能(要事前予約/仕込み期等の繁忙日は、不可との事)。
岡直三郎商店公式HP

国道向かいの南側に、岡直三郎商店の塩蔵【紫色マーカー】があるそうなので、行ってみよう。
醤油造りに使う、食塩水を作る塩を保管した石蔵で、大谷石造りの様である。

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(岡直三郎商店塩蔵。※追加取材時、南側公道から撮影。)



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(※耶馬溪/やばけい)
大分県中津市にある山国川流域の渓谷。新日本三景。国の名勝にも指定されている大景勝地。
中津耶馬溪観光協会公式HP
(※奥村酒造について)
平成25年(2013年)に自主廃業した。店蔵は文化財として、市に買収されたらしい。
(※岡直三郎商店の店蔵について)
平成24年(2012年)に、通りに面した店舗は、原型を元に補修・改装されている。
岡直三郎商店新店舗画像(追加取材時に撮影・86kbyte)

【参考資料】
現地観光案内板
みどり市公式HP
三方良しの会公式HP
岡直三郎商店パンフレット

岡直三郎商店さま、工場見学と撮影・掲載許可を頂きまして、ありがとうございます。
厚く御礼申し上げます。

2016年1月14日再編集
2016年12月10日再編集(文体変更・文章追加・画像整理)

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category: わたらせ渓谷鐵道1日目 29話

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